東京地方裁判所 昭和61年(ワ)1717号 判決 1988年1月28日
原告
米沢喜見男
被告
歌川信也
主文
一 被告は、原告に対し、金二四万九三一六円及びこれに対する昭和六一年二月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金三三二六万五四〇八円及びこれに対する昭和六一年二月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生
(一) 日時 昭和五八年二月二三日午前一一時二〇分ころ
(二) 場所 東京都中野区中野三丁目三六番一三号先道路(以下「本件道路」という。)上
(三) 加害車 自家用普通乗用自動車
右運転者 被告
(四) 被害者 原告
(五) 態様 加害車が、歩行中の原告に衝突し、原告は、路上に転倒して、路面で後頭部を打撲した。
2 責任原因
被告は、加害車を自己のため運行の用に供していたものである。
3 原告の損害
(一) 原告は本件道路のために頚椎捻挫の傷害を受け、昭和五八年二月二三日、同月二四日は中村整形外科医院に、同年三月三日から昭和六〇年一月二四日までは中野総合病院整形外科に通院して治療を受け、同日、頭がぼうつとする、頚椎下部両側の痛み、眼奥の痛み、立ちくらみ等の後遺症を残して症状が固定した。
(二) 右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。
(1) 休業損害 金六九〇万円
昭和五八年二月二四日から昭和六〇年一月二四日までの二三か月間、太平興業株式会社から一か月当たり金三〇万円の給与が得られなかつた。
(2) 逸失利益 金一六一四万六四〇八円
ⅰ 後遺症による逸失利益 金四一四万六四〇八円
ⅱ スーパーマーケツト閉店による逸失利益 金一二〇〇万円
(3) 慰藉料 金九四七万九〇〇〇円
(4) 弁護士費用 金七四万円
よつて、原告は、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、前記損害合計金三三二六万五四〇八円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年二月二三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実について、(一)ないし(四)は認め、(五)は否認する。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実について、(一)のうち、原告が主張の通院をしたことは認め、その余は知らない。(二)は知らない。
三 抗弁
1 過失相殺
原告は、本件道路を横断するに当たつて、付近に横断歩道があるにもかかわらずその手前で横断しようとし、その際、左後方の車両の動静に全く注意をせず、加害車の進路直前を斜めに横断したため加害車と接触したものであり、原告の右過失も本件事故の一因というべきであるから、原告の損害を算定するに当たつては、右の点を斟酌して減額されるべきである。
2 弁済
(一) 被告は、原告の治療費合計金四〇万六八四〇円(中村外科医院治療費金四万〇五〇〇円、中野総合病院治療費金二五万六三四〇円、東京医療生活共同組合「くみあい保険薬局」投薬料金一一万円)を支払つた。
(二) 被告は、原告に対し、昭和五八年三月一日、本件事故による損害賠償の内金として金五万円を支払つた。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は否認する。
2 同2の事実について、(一)は知らない。(二)のうち、被告が金五万円を支払つたことは認め、右が損害賠償の内金であることは否認する。右は見舞金である。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証、証人等目録記載のとおり。
理由
一 請求原因1(一)ないし(四)の事実については当事者間に争いがない。そこで同(五)の事実について判断するに、原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証の一ないし五によれば、被告が、加害車を運転して本件道路を時速約八キロメートルの速度で進行中、わき見をし、同乗者の「危ない」との声に急制動したが、加害車の右前部を歩行中の原告の腰部付近に衝突させ、この結果、原告は、その場に転倒して、路面で後頭部を打撲したことが認められる。
二 請求原因2の事実は当事者間に争いがない。
三 同3(一)(原告の受傷)の事実について判断するに、原告が昭和五八年二月二三日、同月二四日は中村整形外科医院に、同年三月三日から昭和六〇年一月二四日までは中野総合病院整形外科に通院して治療を受けたことは当事者間に争いがない。そして、前記乙第一号証の五、成立に争いのない甲第二号証によれば、原告は、本件事故のため、腰部、右肘、後頭部打撲、頚椎捻挫の傷害を受けたことが認められるが、他方、前記乙第一号証の一ないし五、甲第二号証、成立に争いのない甲第八号証によれば、衝突時における加害車の速度はさほど大きなものではなく、本件事故によつて原告が受けた衝撃も大きなものではなかつたことが推認されるところ、原告は、本件事故直後はたいした傷みもなく、被告に対し受傷した旨は述べていなかつたこと、原告の症状には他覚的理学的所見はないこと、原告が本件事故当日に受診した中村外科医院においては加療約二週間の傷害と診断され、原告が昭和六〇年一一月二〇日に中野総合病院整形外科に受診した際には同年一月二四日をもつて治癒と診断されていることが認められ、右によれば、原告の前記傷害は、治療期間が長期に亙つているものの、日常生活に支障が生じるほどのものではなく、昭和六〇年一月二四日には治癒していたものと認めるのが相当である。原告本人の供述中右認定に反する部分は措信することができない。
四 損害
1 休業損害 金〇円
前認定のとおり、原告の前記傷害は日常生活に支障が生じるほどのものではなく、右傷害により原告が休業せざるをえなかつたものとは認めがたい。したがつて、原告の休業損害の請求は失当といわざるをえない。
2 逸失利益 金〇円
前記傷害の結果、頚部痛等の後遺症が残つた旨の原告本人の供述はこれを裏付けるに足りる証拠がないうえ、その傷害の程度に照らしてにわかに措信しがたく、他に前記傷害の結果原告に就業に支障を生じるような後遺症が残つたことを認めるに足りる証拠はなく、また、前記傷害の結果原告の経営するスーパーマーケツトが閉店せざるをえなくなつたものと認めることもできないから、原告の逸失利益の請求はいずれも失当といわざるをえない。
3 慰藉料 金三〇万円
原告の受傷の内容、治療経過等諸般の事情を総合すれば、原告に対する慰藉料として金三〇万円をもつて相当と認める。
4 過失相殺及び弁済
前記乙第一号証の一ないし四、原告本人尋問の結果により本件事故現場付近の写真であると認められる甲第七号証の一ないし四によれば、本件道路は店舗の密集した歩行者の通行の多い幅員六・七メートルのいわゆる裏通りであるが、原告は道路右側を歩行中、加害車の直前を後方を確認することなく左側に横断を開始したため、前記一記載のとおり前方注視不十分のまま進行してきた加害車と衝突したものであることが認められる。そして、右によれば、本件事故の発生に関し原告にも落ち度があつたものというべきであるから、これを斟酌し、原告の損害額から一割を減額するのを相当と認める。ところで、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四号証の一、原本の存在は争いがなく弁論の全趣旨により原本が真正に成立したものと認められる乙第五号証の二、三によれば、被告は原告の治療費、投薬料として合計金四〇万六八四〇円を支払つたことが認められるから、原告の本件事故による損害額は合計金七〇万六八四〇円となる。そして、右金額を一割減額した金六三万六一五六円から被告が支払つた右金四〇万六八四〇円を控除するとその残額は金二二万九三一六円である。
なお、被告が原告に対し昭和五八年三月一日金五万円を支払つたことは当事者間に争いがないが、成立に争いのない乙第五号証の一によれば、右金五万円は見舞金として支払われたものであることが認められるから、これを本件事故による損害の一部弁済ということはできない。
5 弁護士費用 金二万円
弁論の全趣旨によれば、原告は本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し相当額の費用及び報酬の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑みると、原告が本件事故による損害として被告らに対し賠償を求めうる弁護士費用の額は金二万円をもつて相当と認める。
五 結論
以上の事実によれば、本訴請求は、被告に対し、前記損害合計金二四万九三一六円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六一年二月二三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡本岳)